倉庫は商品・原材料・機器など、企業にとって重要な資産が集中する場所です。しかし「目立たない場所にある」「夜間は無人になる」といった特性から、犯罪者に狙われやすい施設でもあります。実際に、倉庫への不法侵入や商品の盗難、内部不正による資産の持ち出しといった被害は、業種を問わず発生しています。
「うちは地方だから大丈夫」「小規模だから標的にならない」という考えは危険です。防犯対策が不十分な倉庫ほど、犯罪者にとって格好のターゲットになります。この記事では、倉庫に防犯対策が必要な理由から、具体的な対策方法、エリア別のセキュリティ強化策、さらに対策を進めることで得られるメリットまで、わかりやすく解説します。
なぜ倉庫に防犯対策が必要なのか

倉庫が犯罪の標的になりやすい背景には、立地や運用上のさまざまな要因があります。また、防犯対策を後回しにすることは、経営リスクに直結します。まずは倉庫が狙われやすい理由と、対策を怠ることで生じるリスク、そして防犯・防災を一体で考えることの重要性を理解しましょう。
倉庫が狙われやすい理由
倉庫が犯罪の標的になりやすい理由は、主に3つあります。第一に「夜間・休日に無人になること」、第二に「人目につきにくい立地であることが多いこと」、第三に「価値の高い商品・資材が大量に保管されていること」です。
加えて、倉庫は工場や事務所と比べてセキュリティ投資が後回しにされる傾向があり、鍵と照明だけという簡素な対策にとどまっているケースも少なくありません。犯罪者はこうした「対策の甘さ」を見逃しません。下見を行い、警備の手薄な時間帯を狙って侵入するケースも報告されています。
防犯対策を怠ることで生じる経営リスク
防犯対策が不十分な場合、被害が発生したときの経営へのダメージは甚大です。商品や資材の盗難による直接的な損失に加え、業務の停止・取引先への信頼失墜・保険対応のコスト増加など、二次被害も深刻です。
特に食品・医薬品・精密機器などを扱う倉庫では、盗難に加えて「異物混入」や「改ざん」のリスクも存在します。こうした事態が発生すれば、製品の回収や行政対応が必要になり、企業存続に関わる問題に発展することもあります。防犯対策はコストではなく、経営リスクを下げるための重要な投資です。
事故・災害対策も含めたセキュリティの重要性
倉庫のセキュリティは、犯罪への対策だけでなく、火災・地震・水害などの災害対策と一体で考えることが重要です。例えば、防犯カメラは不法侵入の抑止に使えると同時に、火災発生時の初動確認にも役立ちます。また、入退室管理システムを導入することで、緊急時に「誰が倉庫内にいるか」を即座に把握できます。
人命や資産を守るためのセキュリティ体制は、防犯・防災・安全管理を統合した視点で整備することが、今後の倉庫運営において欠かせない考え方です。
倉庫で発生しやすい主なセキュリティリスク

倉庫では、外部からの不法侵入による盗難だけでなく、内部不正やサイバー攻撃といった多様なリスクが存在します。適切な対策を立てるためには、どのようなリスクが・どこで・どのように発生するのかを把握することが不可欠です。ここでは、倉庫特有の3つのセキュリティリスクを詳しく解説します。
盗難被害(商品・資材・IT機器)
倉庫における盗難は、外部からの侵入者によるものと、内部関係者による持ち出しの両方があります。狙われるものは商品・原材料だけでなく、パソコンや書類といった情報資産にまで及びます。
商品・原材料・廃棄物の盗難
倉庫に保管された商品や原材料は、転売目的で狙われるケースが多くあります。特に金属スクラップ・貴金属・電子部品・医薬品などは高値で取引されるため、犯罪者にとって魅力的なターゲットです。
意外に見落とされがちなのが「廃棄物の盗難」です。廃棄予定の金属部品や電子機器のパーツは、スクラップ業者を通じて換金されるケースがあります。廃棄物置き場のセキュリティが手薄になりがちな点は、特に注意が必要です。
パソコンや機密情報の持ち出し
倉庫内に設置されたパソコンやタブレットは、盗難の対象になりやすい資産です。機器そのものの価値に加え、保存された在庫データ・顧客情報・取引先データといった機密情報の漏えいリスクも伴います。
内部不正による持ち出しも深刻です。従業員が故意に情報をコピーして外部に持ち出すケースや、退職時にデータを不正に取得するケースも報告されています。情報資産の管理は、物理的な盗難対策と並行して整備する必要があります。
不法侵入・迷惑行為
外部からの不法侵入は、盗難だけでなく放火・破壊・異物混入といった深刻な被害をもたらすことがあります。また、内部関係者による不正行為も見逃せないリスクのひとつです。
放火・不法投棄・設備破損
無人の倉庫は放火のターゲットになりやすく、一度発生すると建物や在庫の全損につながる可能性があります。また、敷地内への廃棄物の不法投棄や、フェンス・シャッターへの意図的な破損行為も報告されています。「放火(放火の疑い含む)の出火件数(消防白書)」
これらの迷惑行為は直接的な経済被害だけでなく、近隣住民とのトラブルや行政対応の負担にもつながります。外周の防犯カメラや照明整備など、外部からの接触を抑制する対策が有効です。
異物混入・内部不正
食品・医薬品・化粧品などを扱う倉庫では、保管中の製品への異物混入が深刻なリスクです。外部からの侵入者だけでなく、不満を持った従業員による意図的な混入事例も発生しています。
内部不正は発覚が難しいため、入退室記録・カメラ映像の保存・定期的な棚卸しなど、抑止と早期発見のための仕組みを組み合わせることが重要です。「性善説に頼らない管理体制」の構築が求められます。
サイバーセキュリティリスク
倉庫の在庫管理や物流管理がデジタル化・ネットワーク化されるにつれ、サイバー攻撃のリスクも高まっています。物理的なセキュリティだけでなく、デジタル面での対策も欠かせない時代になっています。
在庫管理システムへの不正アクセス
クラウド型の在庫管理システムや物流管理システムは、インターネット経由で不正アクセスされるリスクがあります。システムに侵入されると、在庫データの改ざん・削除・情報漏えいが起こり、業務全体が麻痺する事態に陥る可能性があります。
対策としては、強固なパスワード管理・二段階認証の導入・アクセスログの定期確認が基本です。また、使用していないアカウントの削除や、アクセス権限の最小化も重要な取り組みです。
個人情報・取引情報の漏えい
倉庫の業務システムには、取引先の個人情報・配送先情報・契約内容など、重要なデータが蓄積されています。これらが外部に漏えいした場合、取引先への損害賠償・行政からの指導・社会的信用の失墜といった深刻な結果につながります。
従業員が使用するパソコンへのウイルス対策ソフト導入、不審なメールへの対応訓練、定期的なセキュリティ教育など、人とシステムの両面から対策を進めましょう。
倉庫の具体的な防犯対策

倉庫のセキュリティを強化するには、物理的な設備の整備・入退室管理の徹底・人的対策の3つを組み合わせることが重要です。どれか一つに頼るだけでは防犯の「穴」が生まれます。ここでは、それぞれの具体的な対策方法を詳しく解説します。
物理的セキュリティの強化
物理的なセキュリティとは、設備や機器によって不法侵入や盗難を防ぐ対策です。防犯カメラによる監視と、ゲート・フェンスによる物理的な遮断を組み合わせることで、犯行の抑止と早期発見の両方を実現できます。
防犯カメラの設置
防犯カメラは、犯罪抑止と証拠確保の両面で非常に効果の高い設備です。設置場所は、出入口・駐車場・搬入口・倉庫内の主要通路を優先しましょう。近年はAI機能を搭載したカメラも普及しており、不審な動きを自動検知してアラートを発報するものもあります。
録画データは一定期間保存し、定期的に映像が正常に記録されているか確認することが重要です。カメラの存在を示すステッカーや看板を掲示するだけでも、視覚的な抑止効果が期待できます。
セキュリティゲート・フェンスの設置
倉庫の外周をフェンスや壁で囲い、出入口をゲートで管理することは、不法侵入を物理的に防ぐ基本対策です。ゲートは夜間や休日に完全施錠し、関係者以外が入れない環境を整えましょう。
有刺鉄線付きフェンスや上部に傾斜をつけたフェンスは、乗り越えによる侵入を防ぐ効果があります。コスト面では、全周をフェンスで囲むことが難しい場合、特に侵入リスクの高いエリアから優先的に整備することをおすすめします。
入退室管理の徹底
誰がいつ倉庫に入ったかを記録・管理することは、内部不正の抑止と、有事の際の追跡調査において非常に重要です。ICカードや生体認証を活用した入退室管理と、物理的な多重ロックを組み合わせることで、高いセキュリティレベルを維持できます。
ICカード・顔認証システムの導入
ICカードや顔認証システムを使った入退室管理は、「誰が・いつ・どのエリアに入ったか」を自動で記録できる仕組みです。鍵の紛失・複製によるリスクを排除でき、退職者のアクセス権を即座に無効化できる点も大きなメリットです。
倉庫全体ではなく、保管エリアや執務室など特にセキュリティレベルを高めたい場所から優先的に導入することで、コストを抑えながら効果的な管理が実現できます。
二重・三重ロックの活用
シャッターや扉に複数の鍵を設置することで、侵入に要する時間を大幅に延ばせます。犯罪者は「時間がかかる場所」を嫌うため、多重ロックは強い抑止効果を持ちます。「侵入をあきらめる時間(5分が分かれ目)」
南京錠・ディンプルキー・電子錠など、異なる種類の鍵を組み合わせることで、ピッキングや不正解錠への耐性が高まります。特に夜間や休日に完全無人になる倉庫では、多重ロックは必須の対策といえます。
人的対策と教育
いくら設備を整えても、使う人の意識と行動が伴わなければ効果は半減します。従業員への定期的な防犯教育と、緊急時の対応手順の整備が、人的対策の両輪です。
従業員への防犯教育
従業員一人ひとりが「自分もセキュリティの担い手である」という意識を持つことが、倉庫防犯の基盤です。具体的には、不審者を見かけた際の報告ルール、鍵・ICカードの管理方法、パソコンのパスワード設定ルールなどを社内で明文化し、定期的に研修を実施しましょう。
特に新入社員や派遣・パートスタッフへの周知は見落とされがちです。雇用形態にかかわらず、全員が同じセキュリティルールを理解していることが重要です。
不審者対応マニュアルの整備
不審者が敷地内に侵入した場合、従業員が単独で対応しようとすると危険です。「発見したら一人で近づかず、まず責任者・警察へ報告する」という対応フローをマニュアルとして整備し、全員に周知しておきましょう。
マニュアルは緊急連絡先・報告手順・証拠保全の方法をセットで記載し、見えやすい場所に掲示することをおすすめします。定期的な訓練や読み合わせを行うことで、有事の際にスムーズに動ける体制が整います。
エリア別に考える倉庫セキュリティ対策

倉庫のセキュリティは、「倉庫全体」として一律に考えるだけでなく、エリアごとのリスクの違いに応じた対策が必要です。外周・出入口・倉庫内部・執務室といった各エリアに合わせた対策を整備することで、防犯の抜け漏れをなくすことができます。
外周・駐車場エリア
外周・駐車場エリアは、外部の人間が最初に接触する場所であり、侵入抑止の第一線です。フェンスや照明の整備に加え、防犯カメラや侵入検知センサーを設置して、不審者の接近を早期に察知できる環境を整えましょう。
駐車場に社用車や重機が置かれている場合は、盗難防止のためにハンドルロックやタイヤロックの活用も有効です。また、駐車場への一般車両の無断駐車も不法侵入の温床になるため、「関係者以外立入禁止」の表示と、必要に応じたゲートの設置が重要です。
出入口・搬入口
出入口・搬入口は、人と物が頻繁に出入りするため、セキュリティと業務効率の両立が求められるエリアです。ICカードや暗証番号での入室管理を徹底しつつ、搬入時には必ず立会者を置く運用ルールを整備しましょう。
搬入口はシャッターが開いている時間に侵入されやすいため、作業中も扉付近に担当者を配置するか、カメラで常時監視することが重要です。搬入業者への入場証の発行・回収も、不審者の混入を防ぐうえで効果的な管理方法です。
倉庫内部・保管エリア
倉庫内部は、商品・資材などの重要資産が集中するエリアです。特に高価な製品や危険物を保管している区画は、一般作業エリアと分けて管理し、アクセスできる人員を限定しましょう。
棚や通路にカメラを設置して死角をなくし、定期的な棚卸しで在庫の実数と記録を照合することが内部不正の早期発見につながります。異常があればすぐに記録・報告できる体制をつくることが重要です。
執務室・サーバールーム
執務室やサーバールームは、デジタル情報資産が集まる場所であり、物理的・デジタル的な両面のセキュリティが必要です。入室できる人員を最小限に限定し、ICカードや生体認証での厳格な入退室管理を導入しましょう。
サーバールームは温度・湿度管理も重要であり、不正アクセス対策と合わせて、UPS(無停電電源装置)の設置やバックアップ体制の整備も求められます。定期的なセキュリティ監査を行い、アクセスログに異常がないか確認する習慣をつけましょう。
倉庫の防犯対策を強化するメリット

防犯対策の強化は、被害を防ぐだけでなく、企業のさまざまな側面にポジティブな影響をもたらします。損失回避・品質管理の向上・企業信用の強化という3つのメリットを理解することで、防犯投資の価値をより明確に把握できます。
盗難・事故の防止による損失回避
防犯対策を強化することで、商品・資材・設備の盗難被害を防ぎ、直接的な経済損失を回避できます。被害が発生した場合の修理費・代替品の調達費・業務停止中の機会損失といったコストを考えると、事前の対策投資は十分に見合うものです。
また、労働災害や不審者による事故を防ぐことで、従業員の安全を守り、労災保険や訴訟リスクの低減にもつながります。「守りのコスト」をかけることが、長期的には大きな「損失回避」になります。
品質管理・トレーサビリティの向上
入退室管理システムやカメラ映像の記録は、防犯だけでなく品質管理にも役立ちます。「いつ・誰が・何をしたか」が記録されることで、製品の品質問題が発生した際に原因を追跡しやすくなります。
特に食品・医薬品・化粧品といった製品の品質が人の健康に直結する業種では、倉庫内でのトレーサビリティ確保は法的要件にもなりえます。防犯対策の強化が品質保証体制の強化にも直結する点は、見逃せないメリットです。
企業信用・認証取得(ISO等)への好影響
セキュリティ体制が整っていることは、取引先・顧客・投資家からの信頼向上につながります。特に大手企業や官公庁との取引では、セキュリティ管理の水準が取引条件として求められるケースが増えています。
また、ISO 9001(品質マネジメント)やISO 27001(情報セキュリティマネジメント)などの国際規格の認証取得を目指す際にも、倉庫のセキュリティ体制の整備は重要な評価項目のひとつです。防犯対策の強化が、企業の競争力向上にも直結します。
まとめ|倉庫の防犯対策は「設備+運用+教育」が鍵

倉庫の防犯対策は、防犯カメラ・フェンス・入退室管理システムといった設備の整備だけで完結するものではありません。整備した設備を適切に「運用」し、従業員への「教育」を継続することで、はじめて本当の意味でのセキュリティが機能します。
この3つが揃って初めて、外部からの不法侵入・内部不正・サイバーリスクのすべてに対応できる強固な倉庫セキュリティが実現します。まずは自社の倉庫の現状を点検し、特にリスクの高いエリアや対策の抜け漏れがある箇所から、一歩ずつ改善を始めてみましょう。防犯対策への投資は、企業の資産・信用・従業員の安全を守るための、最も確実なリスクマネジメントのひとつです。
